11.02.2014

みんなで解決!イギリスのフードシステム研究

先日、Essex Sustainability Institute で知った「Fruits of our labour: Labour process and the political economy of the food system」というセミナーに参加してきました。会場は、The Minories Art Galleryという美大併設のギャラリーで、本当にセミナーあるの?というくらいおしゃれでした! :)

1階カフェです
おいしいランチ(久しぶり!)
















  • 主催は研究者と活動家のコラボ団体 "Food Research Collaboration"



Food Research Collaborationは、現場経験をもつアカデミアの方が設立した団体で、イギリスのフードシステムのためにAcademiaとCivil Society Organization(以下CSO) の連携を促進する団体です。


主な活動は、フードシステムに関するセミナーの開催(今回は"The Future of Our Food"というシリーズの1つ)で、アカデミアとCSO両者がパネリストやオーディエンスとして参加しており、両者の経験や知識の共有やネットワーク作りの場を提供しています。オープニングトークからは、アカデミア側の実践的で活用される研究をしたいという強い思いを感じました(今回のテーマははまさに、CSO側からのサプライチェーン上流の不透明性に関する疑問からセッティングされたそう)。


  • フードシステムって経済学?農学?社会学?



食というものが人と切り離せないトピックである以上、フードシステムとひとくくりにされてもその対象とする時間や空間、視点は様々です。ここでは、全体のプレゼンテーションを通じて見えて来たストーリーを私なりにまとめようと思います。


フードシステムと労働となると、まず問題視されるのが途上国プランテーション農場での労働搾取。今回ブラジルからいらしたJosefa Salete Barbosa Cavalcanti氏(Federal University of Pernambuco, Brazil)によると、商品の「クオリティ」を求める現在の世界市場は、ブラジル北東サンフランシスコバレーの ぶどうのプランテーション農園の労働環境について悪影響を与えているそうです。具体的には、「労働時間、賃金に関する条件悪化」や「季節労働者の相対的増加」、「下請け会社によるGLOBAL GAPのモニタリングの甘さ」が指摘されていました。


さて、このような劣悪な環境に対抗する手段として、良い労働条件を保証した「フェアトレード」という方法があります。しかし、Prof. Chris Camerによると、エチオピアとタンザニアのコーヒー・紅茶農園におけるフェアトレードプロジェクトと、周辺の農家を比較した結果、前者(フェアトレード)の労働環境は後者(ノンフェアトレード)に劣ることが明らかになったそうです。フェアトレードはどこがフェアなのかが不透明であり、プロジェクトに関わる少数の農協関係者が大半の利益を取って行くことも散見され、フェアトレード/ノンフェアトレード農家の労働環境格差は年々開いて行っているとのことです。


一方、先進国のフードシステムにおける労働環境も良いとは言えません。アメリカのマクドナルド従業員の約半分は政府から家計補助を受けているとDr. Michael Heasmanは言います。このような社会で現在、様々なアクターが食と労働に関わる状況を改善しようと働いていますが、フェアトレードのように本末転倒になるケースもあります。これに対して彼は、あらゆるステークホルダーを巻き込んだ"Justice"の見直し(ダイアローグ)、共通の認識による再定義が必要だと提言していました。


Justiceの見直しの先に何があるのか?それはDr. Adam LeaverとAndrew Bowman氏(Centre for Research on Socio-Cultural Change)がイギリスのスーパーマーケットにおける豚肉サプライチェーンの比較にて明かしてくれました。イギリスでは近年豚肉の自給率が低下し、比較的賃金の高い国からの輸入が増加しています。これは、豚肉サプライチェーンにおけるマージンの搾取、すなわち非正規雇用による労働契約の短期化を繰り返した結果、産業が不安定になってしまったためだと指摘されます。ケーススタディとして、低賃金労働以外の方法で効率的な豚肉(PB)の流通構造をもつスーパーマーケットのみ、豚肉部門の業績がのびていました。すなわち、適正な労働環境は経営に良い影響をもたらすということです。



  • 変わりダネ:大手企業の人権侵害対策、手段は厭わず!



実は一番目をひいた研究は、Dr.Carole Elliottによる2つのウェブサイトにおけるvisual semioticsの実証比較研究でした。英語力不足から何を言ってるのかいまいちよくわからなかったのですが、コレ↓が物語っていました。




どことなく似ている2つのウェブサイト、実は全く違う意図をもったサイトなのです。

上は、日本でもナビスコやリッツなどのブランドを展開してる世界的お菓子メーカー "Mondelez(UK版)" (日本版)の ホームページです。下は、 "Screamedelz" というパロディサイト。ロゴやカラーリング、タブの配置やページ上部の金額(上ではNASDAQ株価です)まで似せてある"Screamedelz"、一体何のために作ったのでしょうか?


———答えは、Mondelezの人権侵害を訴える(Scream!!)ためです。
よく見るとScreamedelzページ上部の金額は「CEOが(労働者に)補償すべき金額」になっています。公式ホームページより「毎日100000人の従業員に支えられています」などの文章を引用し、「そう、親指を捧げたりね(工場事故で親指をなくしたが一切の補償がなかった従業員の話)」と続けるなどの痛烈な風刺で、Mondelezにおける人権侵害を暴き、消費者にフードシステムの真実を告げています。


残念ながらvisualやdétournementに関することは理解できなかったのですが、このウェブサイトはかなり強烈なアンチ活動だったのでここで取り上げました。




<<関連リンク>>
エジプトとチュニジアにおける労働搾取の現状をまとめたものです、ぜひ見てみて下さい!


画像はScreamdelezウェブサイトより


  • 長い1日を終えて


以下は感想です。

会場にいた研究者の方々やpostgraduateの学生の、実践的な研究を目指しているところや、アカデミアの枠に捕われずいろいろなアクターと恊働して食の問題を解決したい!という姿勢がすごく印象的でした。
そして改めて、フードシステムの分野は経済学や経営学だけでは解決できないものがあるというのを痛感。自然科学系の大学から一転、政治や人権に熱心な人と一緒に住んでいるからか、社会科学の社会における重要性をとても強く感じています。付随して、国際機関がチームで動く意味もわかってきた気 がします。


去年フランスやイギリスのフェアトレード研究や消費者研究の論文を参考に卒論を書いていたときに、そのリアリティーや多様なアクターの出現にずっと憧れていました。なので今回、アカデミア、Civil Society 、量的研究、質的研究全てが一丸となってフードシステムに 取りかかっている様子を見て、イギリスに来たなあと感じた1日でした。
(laborの書き方もlabourになりました。)


私はこの世界に飛び込みたいか?
今はそれを考えています。

おわり。


※私の英語力不足より、詳細に誤りがある可能性があります。申し訳ありません。

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